スプリントゼロ:それはアジャイル成功の秘訣か?
- Masha Ostroumova, Enterprise Agile Coach
- 2023年5月1日
- 読了時間: 5分

最初に「スプリントゼロ」とは何かを明確にしましょう。スプリントゼロとは、新しく結成されたチームが基礎的なアーティファクトを作成し、作業を開始するために実施する初期スプリントを指します。典型的なスプリントゼロは次のような流れで進行します:
1日目 - チームのキックオフ、自己紹介、チーム規範の確立
2日目 - 顧客ペルソナの作成と顧客ジャーニーのマッピング
3日目 - プロダクトビジョンの定義とOKR(目標と主要成果指標)の設定
4日目 - チームプロセスのマッピング、「Readyの定義」および「Doneの定義」の策定
5日目 - 初期バックログアイテムの作成と精緻化
この具体的な流れは、チームやプロダクトの要件に応じて変わることがあります。たとえば、この期間中にMVP(Minimum Viable Product)のマッピングやユーザーストーリーテンプレートの合意を行うことも選択肢です。スプリントゼロの最終目標は、初回の作業スプリントに向けてバックログを準備することです(必ずしもスプリントを採用する必要はありませんが、計画は不可欠です)。
スプリントゼロの利点
利点1: チームを一つにまとめる
スプリントゼロは、チームメンバーが本格的な作業に入る前に打ち解け、お互いを知る機会を提供します。この初期段階で信頼関係を構築することで、スムーズなコラボレーションが可能になります。また、このフェーズでチーム規範や期待値を設定することで、ブルース・タックマンの「形成‐混乱‐統一‐成果」モデルにおける「統一」段階を迅速化できます。これにより、チームはより早く「成果」段階(最も生産性が高く、結束力がある状態)に到達できます。
利点2: 集中的な時間確保
スプリントゼロでは、プロダクト開発に入る前にチームが作業プロセスを確立するための専用時間を確保できます。通常、作業が始まるとチームは多忙になり、プロセスの見直しに時間を割くことが難しくなります。スプリントゼロを設定することで、提案されたプロセスの試運転を行い、問題点を特定し、実際の作業開始前に最適なプロセスを見つけることができます。
利点3: 大局観の獲得
スプリントゼロは、プロダクトビジョンや顧客の理解といった「大局」に集中する絶好の機会です。この全体像への注目は、新しいチームやプロダクトにとって特に重要で、今後の開発のための確固たる基盤を築くことができます。また、「チームの再出発」の際にも、スプリントゼロはメンバーが一歩引いて優先事項を再評価し、重要な目標に焦点を合わせる機会を提供します。
利点4: トレーニング専用の時間
スプリントゼロは、プロダクト開発に伴う妨げがない状態でトレーニングや学習に集中する時間を提供します。この段階ではワークショップが多く行われ、チームはハンズオンでAgileを学びます。たとえば、顧客調査のトレーニングを受けた後にペルソナと顧客ジャーニーを作成し、次にユーザーストーリーのワークショップを行い、最初のユーザーストーリーを定義します。このように集中して学ぶことで、チームは将来の課題に備えるためのスキルと知識を習得できます。
利点5: 明確な切り替え点
Agileトランスフォーメーションでは、チームが従来の作業スタイルを変更し、Agileを採用するタイミングを明確にすることが難しい場合があります。スプリントゼロは、この問題に対する明確な解決策を提供します。スプリントゼロが完了すると、チームは新しい方法での運用を開始します。この明確な区切りは象徴的な意味を持つだけでなく、旧来の方法を終え、Agile手法を採用するための新しいスタートを切ることができます。このような明確な切り替えは、トランスフォーメーションプロセスを円滑にし、曖昧さや混乱を軽減します。
スプリントゼロの欠点
欠点1: プロダクト作業が進まない
スプリントゼロに対する一般的な批判は、「プロダクト作業が進まない」という点です。もちろん、これは完全には正しくありません。スプリントゼロで行われる作業は、プロダクト開発ではなく、成功するチームワークのための準備作業です。しかし批判者の言い分にも一理あります。スプリントゼロの間、顧客対応作業は一時的に止まります。つまり、顧客からのリクエストへの対応や問題解決が遅れる可能性があります。このような中断が許されない状況では、スプリントゼロのメリットが薄れる場合があります。
欠点2: ハンズオンのサポートが必要
スプリントゼロは、トレーニングやワークショップ、チームビルディング活動が目白押しの「マラソン」になることがあります。この集中的なプロセスを進行するには、Agileコーチのハンズオンのサポートが欠かせません。しかしリソースが限られている場合、複数のスプリントゼロを同時に進行するのは難しいでしょう。
欠点3: ウォーターフォールへの逆戻りリスク
スプリントゼロは、危険な前例を作るリスクもあります。多くのワークショップやトレーニングを事前にスケジュールする必要があるため、すべての作業がこのように計画されるべきだという誤った印象を与える可能性があります。この結果、チームが詳細な作業計画やガントチャートを作成するウォーターフォール型の手法に逆戻りするリスクがあります。これはAgileの原則に反し、バックログの作成と継続的な優先順位付けを重視すべき本来の目的から逸脱してしまいます。
スプリントゼロの代替案は?
スプリントゼロには多くの利点がありますが、その実施が難しい場合、他の方法でもAgileの成功に向けた基盤を築くことが可能です。たとえば、組織内のAgileコーチやスクラムマスターをトレーニングし、各チームを段階的に指導できるようにすることが効果的です。
さらに、スプリントゼロがなくても学びのプロセスを積極的に進めることが重要です。チームが単にトレーニングセッションを聞くだけではなく、ワークショップを通じて「実践しながら学ぶ」ことを奨励しましょう。
最後に、どのアプローチを採用するにしても、各チームがビジョンと目標を定義することが重要です。標準的なプロセスフローを守り、ステップを飛ばさないことが、チームの成功を確実にする鍵です。Agileは反復的な進歩が特徴ですが、その進歩には明確な方向性が必要です。
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